山 行 報 告
2009/7/26 谷川・一ノ倉沢南稜 メンバ:S,、AO,YO, 記録:AO,S


最終ピッチをリードするS テールリッジを登るYOとS テールリッジを登るYO@ テールリッジを登るYOA テールリッジを登るS



【コースタイム】

相模湖駅0:00=中央道=圏央道=関越道=水上IC=一ノ倉沢駐車場(仮眠)8:30―テールリッジ―南稜取り付き10:45―南稜―14:30終了点14:45―南稜下降―南稜取り付き16:10―テールリッジー18:30一ノ倉沢駐車場=ユテルメ谷川=あしま園(閉店)=水上IC=関越道=圏央道=相模湖駅(解散)




【記録その1】

 梅雨明けである。しかし雨である。しかも九州では記録的な豪雨で災害まで発生している。関東も雨である。水上も雨である。一ノ倉はもちろん雨である。

 仮眠から目覚めるとやはり雨である。もうひと眠りすると雨が上がっていた。しかしまだ壁は濡れている。出発の準備をしている2人パーティーにSさんが声を掛ける。元S山岳会で現在はK山岳会で活躍してるT女史とのこと。我々は朝食を食べ、もうひと眠り。

 目覚めると路面はすでに乾き始めている。テールリッジはまだ半乾き。Sさんはスニーカーのため滑る。ここはやはり5・10の岩トレに限る。先行2パーティーが南稜をすでに登っているが遅い。壁はまだ濡れているようだ。天気も上向き、壁も見える。

 今年は雪渓通しにテールリッジには行けない。時間がかかる。テールリッジ手前のスノーブリッジは、かろうじてヘリを回ることができた。1ピッチ目はリードさせていただく。岩も乾き始めて楽しい。2ピッチで先行に追いつく。先行は新潟から来ているとのこと。ピンをたたきながら丁寧に登っている。大変ゆっくりだ。

 2ピッチ目からはSさんが最後までリードする。最後のW+ピッチは再び雨。濡れたいやらしい壁だがみごとクリア。お疲れ様でした。懸垂下降は、先行と一緒に下降する。YO・AOは5・10の岩トレに履き替えるが、Sさんはそのままフラットソールで濡れた岩と格闘しながら下山。恐怖を味わう。濡れた壁との格闘は、剣合宿前の良いトレーニングとなった。

 K山岳会の2人は、稜線を抜けて西黒尾根経由で駐車場に戻ってきた。すばらしい体力と技術。あしたは、中央稜に行くとのこと。Sさんも明日は奥多摩の沢に行くという。私はもうへろへろで明日行くエネルギーはない。今日の一番残念だったことは、時間が遅くなり、あしま園が閉まってピリ辛ラーメンが食べられなかったことだ。                                                              (AO記)


【記録その2】

 変形チムニーに登る計画を立てたのは、今シーズンに入って2度目だった。しかし毎週末この雨では、行けるはずがない。そうかと言って行かずに諦めるにも、どうにも諦めがつかないので、大高さん祐美さんに半ば無理やりにお願いをして、とりあえず谷川へ向かうことになった。

 前日の予報では降水確率は40%。しかしずっと雨だった予報から、曇りのち夕方から雨という予報になっていた。夜中3時過ぎに一の倉の駐車場に着く。停まっている車は全部で4台ある。小雨の降るなか車の中で3時間ほど仮眠する。

 6時頃に車のエンジン音で、眼を覚ました。1台の車が帰っていった。雨はかろうじて降っていないが、霧雨のようなどんよりした天気で、登はん意欲は起こらない。寝不足ということもあり、もう一眠りすることにする。

 人の気配で眼を覚ます。2人組のパーティが準備をしていた。Tさんたちだ。こんな雨の日に一ノ倉にいるのはやっぱり立石さんたちくらいだった。Tさんたちも、今期初の岩バリらしい。一ノ倉はまだ深いガスの中に包まれていて、衝立も烏帽子岩もまるで何も見えない。

 Tさんたちは南稜を登って稜線に抜ける為、早々と準備を済ませ、深い霧の中に消えていった。私たちはガスが切れるまで、そのまましばらく車で待機する。しばらくすると、ガスの中から一の倉沢が現れた。中央稜も南稜も見えたが、濡れて黒く光ってみえる。

 今日の日中だけは天気はなんとかもちそうだと、AOさんが言う。それを合図に、行く準備を始める。一ノ倉沢の河原を歩き、テールリッジの取付きまで夏道を上がる。一ノ倉沢の夏道のアプローチは、何度来てもイヤなところだ。

 ひょんぐりの滝を高巻いて、テールリッジへの取付きまで下降する。AOさんとYOさんが懸垂で降りようかと話しているが、結論はクライムダウンになった。ポカンとしている私にはお構いなしに、OAさんはもうクライムダウンをしている。「ロ、 ロープ」と呟いてみるが、もう届く距離にはいない。

 最後の望みをかけてYOさんのほうに向かって同じく呟いてみるが、聞こえているのかいないのか、AOさんと同じくクライムダウンし始めている。そうこうしているうちに、AOさんはもう半分以上降りている。YOさんも、どんどん降りていく。

 慌てて残置フィックスの地点まで登り、ロープが効いているか確認してビナを通してから、クライムダウンに入る。半分くらいきたところで振り返ると、AOさんはもう沢を渡ってテールリッジの取付き側にいる。のんびり降りている場合じゃない。置いていかれる!!この際FIXに重心をかけ、一気に下降する。

 今年の雪渓は、状態が良くないみたいだ。テールリッジへ上がるには、スノーブリッジになっている雪渓のヘリと岩の間にある取っ掛かりをホールドにして上がる以外、取り付けなさそうだ。まず、AOさんが上がる。簡単そうには見えない。YOさんでも、少し時間がかかる。もちろん、私がすんなり上がれる訳がない。

 取付いてみるものの、上へ上がる為のホールドが遠い。ボルダー課題のようだ。落ちたら流されてしまうと思うと怖くて、どうにも一手がでない。見かねて、AOさんがスリングをたらしてくれる。もちろん、つかまる。

 やっとのことでテールリッジに取付くが、取付く前に精神的な消耗が激しかった為か、まだテールリッジが半乾きな為か、なかなか調子が上がらない。終始遅れ気味でAOさんYOさんに必死でついていくが、なかなか追いつかない。

 2人はまるで舗装道路でも歩いているかのように、おしゃべりしながら歩いている。楽しそうに写真撮影までしている。私は、ぜんぜんそれどころではない!!やっとのことで、中央稜の基部に辿り着く。中央稜〜南稜のトラバースも、もちろん濡れている。濡れているというか、水が流れている。

 これはもう少し頑張らないと、南稜には辿り着けない。いつもの乾いていれば何でもないトラバースを、一歩一歩慎重に確実に登っていく。途中、変形チムニーの取り付きに着く。水がサラサラと流れている。これでは、完璧に登れない。

 最初の1ピッチは、AOさんが登る。チムニーは、完全に濡れている。濡れていても、ホールド・スタンスはぬめったりはしていない。思い切って、フリーで上がる。今年初の念願の岩登りに、心がうきうきしている。うん。やっぱり楽しい。リードがしたい!!

 2ピッチ目:取りつきにて、おづおづと申し出てみる。「あのお、リードさせてもらってもいいですかねえ…」AOさんもYOさんも大人だから、すんなりリードさせてくれる。ここまであんなに怖い思いして取付いたんだから、リードしないで帰る訳にはいかない。幸い、天候はなんとか持ちそうだ。
 2ピッチ目は、岩が立っているように見えるが、ホールドが豊富なので、特に問題はない。ここまで上がるとだいぶ岩も乾いていて、快適に上がれる。

 3ピッチ目:草付の岩場を上がって、正面の壁にぶち当たったところで、ピッチを切る。ここからは、ゆっくりと登っている先行パーティと、一緒に上がっていくことになった。

 4ピッチ目:正面ハングを左上して回り込み、また壁にぶち当たったところで、すぐにピッチを切る。ここで切らずに、そのまま左側にトラバースすると、はまるパーティが多いらしい。

 5ピッチ目:、正面の岩に乗り上がり、そのまま馬の背リッジへと上がる。途中短めのスリングで支点を取っていた為、ロープの流れかなり悪くなり、重くて上がるのに苦労した。徐々に、天気は悪くなりそうな気配がしてきた。降る前に、出来れば中央稜の基部まで辿り着きたい。
 先行パーティにぴったりとくっついてプレッシャーをかけてみるが、丁寧に慎重に登っていてなかなかスピードを上げてもらえない。 

 6ピッチ:馬の背リッジを直上。高度感もあって、クライミングが楽しい。そのまま核心の最終ピッチ手前いっぱいまでロープを延ばせそうだが、先の岩も濡れていそうなので、早めにピッチを切って上がっていく。

 7ピッチ目:リッジを右側から回り込んで取付き、またリッジに上がる。ここはやはり濡れている。濡れている岩の上に、丁寧に足を置いていく。ホールドも一手一手丁寧に探して、思い切ってフリーで乗り上がる。最終ピッチに、先行パーティが取付いている。なかなかすんなり上がりそうもないので、支点を借りて先にAOさんとYOさんに上がってきてもらう。たしかに、濡れている。
 しばらく見学するが、やはり最後はA0で上がっていく。たしかに、悪そうだ。最初の出だしで、上がるのに少し迷う。ここで初めて少し足が滑ったので、慎重に登る。核心部はピンが連打してあるが、岩が濡れている為か、核心の手前までは次のピンまでが遠く感じる。一つ一つピンを取る度に、少し安心する。落ち着いているが、できれば早く抜けたい。
 核心の連打されてあるピン全部に、支点を取って慎重に丁寧に登っていく。あと一手というところで、気づいた。「あ、ヌンチャクない…。」AOさんYOに向かって、迷わず「A0しまーす。」と声を掛ける。YOさんの笑い声が聞こえてくる。 終了点へと辿り着くと、またポツポツと雨が降ってきた。先行パーティと一緒に、同ルートを下降することにした。懸垂3ピッチで、南稜テラスに着く。

 雨は本降りになりそうなので、なるべく早く降りてしまいたいと内心心細くなる。南稜テラスから中央稜基部までのトラバースは、やはり岩が濡れているというよりは、水が流れている。ここは落ちたら絶対おしまいなので、慎重にクライムダウンして降りようと思うが、取付いてみると想像していたよりずっと怖い。

 いつもなら注意していればなんでもないところだが、怖くて腰が引けてしまい、どうにも冷静に降りることが出来ない。かなりパニックになりながら、なんとか中央稜の基部まで辿り着く。雨も上がる気配はしないので、先を急いで降りる。OAさんとOYさんは濡れているテールリッジの下降も、難なくすたすたと降りていく。置いていかれないようになんとか付いていこうと思うが、なかなかすんなり下れない。なんども怖い思いをしながら、やっとひょんぐりの滝を高巻いてクライムダウンする地点に戻ってきた。

 ここで、最大の核心が待っていた。上がるのにあんなに苦労したのだから、簡単に降りれるはずがない。下は一ノ倉沢だ。落ちたら流されて、ひょんぐりの滝に飲み込まれてしまう。まずは、OAさんが降りる。ザックをOAさんに渡す。「降りておいで」とOAさんが言うが、頭から降りれないと思い込んでるから、なかなか手も足も出ない。
 見るに見かねて、OYさんがスリングで確保してくれる。しかし、支点をとっている訳ではないから、私が落ちたらOYさんも落ちてしまうのではないかと思うと、やはり躊躇してしまう。下では、OAさんが、スポットしてくれている。大掛かりだ。意を決して、降りる。

 ボルダーのようにのっぺりとした岩にしがみ付いて、トラバースしながら降りる。続いて、OY美さんが降りる。あとは、クライムダウンしたり、登り返したり、沢登りしながら、駐車場を目指した。駐車場に着いたころ、Tさんたちも戻ってきた。

 振り返ると、一ノ倉沢はまたガスの中にうっすらとかろうじて輪郭を見せている。
 南稜から見た変形チムニーは、想像以上に立って見えた。あの傾斜は、私はまだ登ったことがない。果たして、晴れたとして、私の今の力で、本当に登れただろうか。

 それにしても、こんなにアプローチと下降が怖かったのは、初めてだった。OAさんOY美さんがいなかったら、もっと怖い思いをしただろう。山は状況次第だということを、改めて思い知った山行だった。とても勉強になりました。本当に有難うございました。   (S 記)